| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-139  (Poster presentation)

ゴキブリのビビリスイッチ:捕食者の痕跡を避けるか?【A】【O】
What is a 'scare switch' for cockroaches?【A】【O】

*Ayana TANINO(Kyoto Univ.), Shuichi YANO(Kyoto Univ.), Toshiharu AKINO(KIT)

捕食者は被食者を食べて減らすだけではなく、被食者に警戒させることでも活動を抑える。この捕食以外の抑止効果の大きさは捕食者が直接的に捕食する効果に匹敵するとされる。この研究分野は水系の生態学で発展してきたが、近年は陸上の生態系でも被食者が捕食者の足跡や痕跡に残る化学物質を感知して捕食を回避する例が次々に発見され「足跡の生態学」と呼ぶべき新分野が急速に開拓されつつある。この足跡回避による捕食回避戦術は自然界で広く採用されていると思われるが、これまでに検証された材料は限られており、この理論の普遍性を証明するためには未知の材料で検証することが重要である。ゴキブリは嗅覚が発達しているため、彼らの捕食者である大型節足動物や爬虫類の存在を化学物質によって感知する潜在力を持つと予想した。ゴキブリの捕食回避に関する先行研究の多くは物理的刺激に対する反応を調べており、ゴキブリが捕食者の痕跡を嗅覚で避けるか否かは検証されていない。
そこで本研究では、ゴキブリがその捕食者の痕跡を避けることを実験的に検証するため、捕食者の痕跡(足跡または糞)がある/ない遮光シェルターを選ばせる二択試験により忌避反応を判定した。その結果、チャバネゴキブリの成虫はアシダカグモ、トビズムカデ、ハラビロカマキリ、ニホンヤモリ、ニホンカナヘビなどの多くの捕食者の足跡または糞を避けた一方で、同種の糞や捕食者ではないナガサキアゲハ幼虫などの糞は避けなかった。これらの結果から、ゴキブリが捕食者の痕跡を避ける理由は、不衛生性によるものではなく、捕食を回避する適応である可能性がある。また、ゴキブリは直接の捕食者ではないヒトの手が触れた痕跡も強く避けた。この行動は、ヒトによる捕殺を回避する適応である可能性がある。さらに、ゴキブリが忌避することが確認された各種痕跡の抽出物質に対するゴキブリの忌避反応を報告する予定である。


日本生態学会