| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-140 (Poster presentation)
群集の食物連鎖長は,その群集が属する生態系の栄養基礎(一次生産者や生物遺骸)から頂点捕食者までの栄養段階数と定義され,栄養カスケード効果を通じて群集や生態系の構造と機能を左右しうるため,その決定機構を理解することは重要である。多くの研究では,生態系の面積や体積が大きいほど,群集の食物連鎖は長いとする生態系サイズ仮説が支持されている。
演者らは,山地渓流の淵に植物リターが堆積したリターパッチという微小生態系(0.01~数10 m2)においても,底生動物群集の食物連鎖長は面積の大きいパッチほど長い場合が多いことを示した(70回大会)。さらに演者らは,この生態系サイズの効果は,大きなパッチほど捕食者個体に対する栄養制限が強まるために生じることを示唆する証拠を示した(71回大会)。リターは窒素(N)に乏しいため,底生動物にはパッチ外から流入するNに富んだ付着藻類に由来する資源が重要である。周囲長:面積比が大きい大面積パッチほど,付着藻類由来資源のパッチ面積あたり流入量は少ないため,捕食者個体に対するN制限は強く,ギルド内捕食の頻度が高まり群集の食物連鎖は延伸すると考えられる。
付着藻類や底生動物個体のCN比は,渓流水へのN供給が大きい集水域の渓流ほど低い事例が知られている。もしそうであれば,パッチ面積の増加にともなう捕食者個体へのN制限の相対的増加は,N供給が大きく付着藻類が高質な集水域の渓流ほど大きい可能性がある。山地渓流では,渓流水へのN供給は表層地質に左右される場合がある。これらのことは,流域の表層地質は,生態系サイズの増加にともなう群集の食物連鎖長の相対的増加を左右することを示唆する。演者らは,集水域の表層地質が異なる10の近接する山地渓流において,表層地質,付着藻類とリターのCN比,リターパッチ面積と底生動物群集の食物連鎖長との関係を評価し,これらの相互関係を検討した。