| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-143 (Poster presentation)
人間活動由来の汚染物質の生態影響を評価する際,日本では標準試験生物を対象とした種レベルの試験で得られた毒性値を指標としている.しかし,この方法では様々な種によって構成される生物群集への影響を評価することは困難である.水圏の生物群集全体に及ぼす化学物質の影響を評価するためには,生食食物連鎖や微生物ループなどを考慮に入れた食物網を対象とする必要がある.農薬や医薬品類は物質ごとに作用機序が異なるため,影響を強く受ける生物群の栄養段階は異なる.例えば,枝角類は殺虫剤(神経系阻害剤)に対しての感受性が高く,殺菌剤(抗生物質)は細菌類に強く影響を与える.本研究では,作用機序の異なる化学物質による湖沼の食物網構造への影響を明らかにすること目的として,マイクロコズム実験を行った.
実験は恒温室内と屋外でそれぞれ1回ずつ行った.マイクロコズムの容量は20 Lで,生物群集は諏訪湖の底泥に含まれるプランクトンと微生物から構築した.殺虫剤(ピリミカーブ)と抗菌剤(オキシテトラサイクリン)を添加し,室内実験では餌としてChlorella vulgarisを定期的に添加し,屋外実験では諏訪湖の植物プランクトンを実験開始時に入れた.動物プランクトンは検鏡により定量し,微生物相(原生動物と細菌類)はqPCRとDNAのメタバーコーディングにより解析した.
室内実験では,殺虫剤に対しての感受性が高い大型のミジンコが減少し,感受性の低いワムシ類が増加した.また,それに伴って,ワムシを餌とするカイアシ類が増加した.抗菌剤を添加した処理区では細菌叢が変化したが,DNA量が定量限界よりも低く,微生物量が少ないことが分かった.そのため,室内実験では,微生物ループの寄与が小さい可能性が示唆された.屋外実験については現在データの解析を進めており,本講演ではその結果についても説明する.