| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-146 (Poster presentation)
休廃止鉱山に由来する河川生態系への影響を低減し回復を図るため、一部の休廃止鉱山では坑廃水処理などの施策が実施されている。しかし、坑廃水処理を開始して数年の間は、比較的短い世代時間を持つ底生動物群集であっても不安定な変動を示すことが報告されている。したがって、坑廃水処理の効果を適切に評価するには、数十年にわたる時間的スケールが必要である。本研究では、関東地方の閉山されたある銅山の周辺河川において底生動物群集および河川水質を調査し、長期的な坑廃水処理施策の効果を検討した。調査は2022年11月および2023年2月、5月、8月に実施し、処理廃水の流入地点の上下流を含む複数の地点において、サーバーネットを用いた底生動物の採集を行った。また、底生動物の採集地点では流速などの物理的要因を記録したほか、河川水の重金属類の溶存態濃度を定量した。重回帰分析の結果、本研究のデータセットには坑廃水処理の範囲外である高濃度地点も含まれているにも関わらず、底生動物の個体数および種数は重金属汚染の程度と明確な関連は示さなかった。しかし、優占種には調査地点間で明確な違いがみられ、個体数や種数では評価できない群集構造の違いが示唆された。非計量多次元尺度法を用いて各調査地点の底生動物の群集構造を比較した結果、銅山との間に尾根を挟んだ対照区(河川)の合流直後の地点以外は、重金属濃度や季節、距離にかかわらず、対照区とは大きく異なる群集構造であった。また、銅山が閉山した時期の底生動物調査データを文献から入手して現在(本研究)の群集構造と比較したところ、過去の群集構造は閉山前後で大きく変化しており、唯一対照区の群集構造のみが時間的に殆ど変化していなかった。閉山直前のタイミングでみられるようになった「対照区とそれ以外の地点」という群集構造の特徴が、閉山から数十年が経過した現在でも引き続いていることが明らかとなった。