| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-149 (Poster presentation)
九州島南部の一部では強度なシカの植生採食により、2000年前後に下層植生が消失し、下層植生のある森林(Presence of understory; PU)が下層植生の消失した森林(No understory; NU)に変化している。NUの一部はさらに、ギャップを含む疎林(Canopy gap; CG)や不嗜好性のアセビ優占林(Shrublands; SR)へ移行しつつある。またPUからNUへの移行に伴い、土壌侵食が生じている。こうした森林構造の変化は炭素固定機能を劣化させる可能性がある。そこで本研究は、PUからNU・SR・CGへの変化に伴う総炭素量(上層木、下層植生、落葉、落枝、枯死木、粗根、細根、土壌)及び炭素収支(純一次生産、従属栄養呼吸、土壌侵食)の変化を評価した。調査は森林タイプ毎に4反復設置した100–400 m2のプロットで行った。総炭素量は、PU(25190.5 ± 3065.1 g C m−2)からNU(20683.6 ± 4152.2 g C m−2)・SR(14162.5 ± 6561.1 g C m−2)・CG(12953.1 ± 6160.3 g C m−2)への変化に伴い最大50%低下した。炭素収支については、PU(307.0 ± 244.6 g C m−2 yr−1)およびSR(92.3 ± 158.1 g C m−2 yr−1)は正味の吸収源であったのに対し、NU(−98.2 ± 92.3 g C m−2 yr−1)及びCG(−894.4 ± 442 g C m−2 yr−1)は正味の排出源であった。炭素収支が低下した主要因は、シカ採食に伴う後継樹不足による一次生産量の低下、樹木衰退に起因する従属栄養呼吸の増大、及び土壌侵食による土壌有機物の流亡であった。このような炭素収支の低下が長期間継続した結果、総炭素量の低下を引き起こしたと考えられた。