| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-150  (Poster presentation)

土壌有機態リンの優占度は低リン土壌で高まるのか?:ボルネオ低地熱帯林での広域調査【A】【O】
Does the abundance of soil organic phosphorus increase in low-phosphorus soils?: An extensive survey in Borneo lowland tropical forests【A】【O】

*平田萌根(京都大学), 水上知佳(京都大学), 小嶋慧(京都大学), 今井伸夫(東京農業大学), 竹重龍一(国立環境研究所), 北山兼弘(京都大学), 相場慎一郎(北海道大学), 小野田雄介(京都大学), ROBERTRolando(サバ森林研究センター), LUISandy(サバ森林研究センター), REUBENNilus(サバ森林研究センター), VANIELIEJustine(サバ公園), 青柳亮太(京都大学)
*Mone HIRATA(Kyoto Univ.), Chika MIZUKAMI(Kyoto Univ.), Satoru KOJIMA(Kyoto Univ.), Nobuo IMAI(Tokyo Univ. Agriculture), Ryuichi TAKESHIGE(NIES), Kanehiro KITAYAMA(Kyoto Univ.), Shinichiro AIBA(Hokkaido Univ.), Yusuke ONODA(Kyoto Univ.), Rolando Bin ROBERT(FRC Sabah), Sandy Tsen Tze LUI(FRC Sabah), Nilus REUBEN(FRC Sabah), Justine Terrence VANIELIE(Sabah Parks), Ryota AOYAGI(Kyoto Univ.)

熱帯林では高温多湿な気候により土壌の風化が進み、植物が直接利用可能な無機態リンが少ない。そのため、植物や微生物が有機態リン(Po)を主なリン供給源とすることで、高い森林バイオマスや植物多様性が維持されているとされてきた。この仮説は有機物リター除去実験などによって検証されてきたが、一連の研究はモデルサイトに限定されており、多様な土壌環境における有機態リンの役割は十分に解明されていない。理論的には、土壌のリン濃度が低下するほど有機態リンの割合が高まり、生物にとって有機物の重要性が高まると考えられるが、その仮説を実証した例はない。

本研究では、沖積土壌、ポドゾル土壌、堆積岩土壌、蛇紋岩土壌、火山灰土壌など多様な土壌タイプを含むマレーシア・サバ州の低地熱帯林76地点を対象に、土壌有機態リンが全リン濃度に占める割合を評価することを目的とした。各地点で表層10 cmの土壌を採取し、Hedleyのリン連続抽出を行い、化学溶解度の異なる3つの画分(即効性のNaHCO3画分、遅効性のNaOH画分、一次鉱物のHCl画分)に分類した。NaHCO3およびNaOH画分は有機態と無機態に分画し、全リン、炭素(C)、窒素(N)濃度も測定した。

表層土壌の全リン濃度は、47〜610 mg P kg‒1を示し、世界的にも低い値から温帯林レベルで高い値まで幅広い勾配が見られた。全リン濃度が低下するほど、全リンに対するNaHCO3・NaOH画分の有機態リンの割合がそれぞれ増加し、総量は約1割から最大で約6割に達した。しかしこの関係には自己相関があり、解釈には注意が必要である。さらに、植物が利用可能なリン(NaHCO3、NaOH、HCl画分の総計)が低い土壌では、C/PoやN/Poが高まる傾向を示し、植物や微生物は有機物からより多くのリンを獲得している可能性を示した。

これらの結果から、熱帯低地林の中でも土壌タイプによってリン濃度に大きな勾配があり、土壌リン濃度の低下と共に有機態リンのリン供給源としての重要性が高まる可能性が示唆された。


日本生態学会