| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-153 (Poster presentation)
土壌微生物は物質循環など多くの生態系機能と関わっている。そのため、気候変動による撹乱に対する生態系機能の応答予測には、土壌微生物群集と生態系機能の関係性のさらなる理解が必要である。先行研究では、炭素循環に大きく影響する土壌微生物呼吸の安定性は土壌微生物の群集構造と関係をもつことが見られた。斜面方位は日射量を左右し、土壌の非生物的環境を改変することによって微生物の群集構造に影響をもたらすことが知られている。しかし、異なる斜面方位における土壌微生物呼吸の安定性やそれと土壌微生物群集の関係についての知見が乏しい。そこで、本研究では冷温帯林の北、南斜面方位の土壌を用いて、乾燥-湿潤撹乱に対する土壌微生物呼吸の安定性および土壌微生物群集を調査した。本調査地では北斜面では南斜面に比べて土壌含水率やpHが高く、菌類より細菌が優占していることが明らかになっている。本研究では安定性の評価として、圃場用水量(WHC)50%に調整した土壌を10%に乾燥させたもの、そしてWHC10%から50%まで戻したものの呼吸を基づいて安定性を算出した。呼吸測定後、土壌試料を直ちに凍結乾燥し、リン脂質脂肪酸(PLFA)分析により微生物の群集構造を測定した。土壌微生物呼吸の安定性は、北斜面の方が南斜面より低い傾向があった。PLFA分析の結果、北斜面では南斜面に比べて菌類/細菌比が低く、ストレス指標であるSat/Mono比やCy/Pre比が低かった。これは斜面間の土壌の非生物的環境の違いを反映していると考えられる。また、呼吸の安定性は細菌バイオマスやストレス指標などと有意な相関関係をもった。これは北斜面で優占するストレス耐性の低い微生物群集は南斜面に比べて乾燥-湿潤撹乱によって呼吸量がより大きく変化したことを示唆する。本発表では、乾燥-湿潤実験より見られた土壌微生物の群集構造の変化についても、微生物の生理特性と合わせて考察する。