| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-154 (Poster presentation)
カブトムシ(Trypoxylus dichotomus)の幼虫は,土壌動物であり落葉や腐植を摂食している.幼虫は土壌動物の中でも大型であり,陸上生態系のリター分解に対して大きな影響力を持つと予想される.しかし,幼虫によるリター分解に関する研究は少ない.本研究は,カブトムシの3齢幼虫を対象に①摂食速度および摂食に伴う炭素・窒素の動態,②周囲の土壌微生物のリター分解速度に及ぼす影響,③幼虫糞の分解特性ついて明らかにすることを目的とした.
①は落葉リターを飼料として3週間の飼育実験を行い,飼料や糞の量を測定することで評価した.②はマイクロコズム実験を行い,幼虫が微生物呼吸速度に与える影響を検証した.③はリターバッグ実験を行い,幼虫糞と摂食前リターを林床に埋設し,その重量減少から評価した.
幼虫の摂食速度は43~133 mg D.W. ̄¹ g F.W. ̄¹ day ̄¹であった.これは,代表的な土壌動物であるダンゴムシやミミズよりも小さい値であった.飼育実験前後の実験ポット内の総炭素量および総窒素量に大きな変化は見られず,3週間の実験期間では幼虫や微生物により消費される炭素・窒素量はわずかであった.幼虫の存在は,微生物呼吸を2~7倍に増加させ,マイクロコズムから幼虫を除去してからも3週間に渡って継続した.これは,幼虫の排泄にともない一時的に腸内微生物が供給されることや,幼虫糞による保湿効果や通気性の増加に起因すると考えられた.幼虫糞は,初期の半年間において摂食前リターよりも速く分解される傾向を示した.これは,幼虫糞が摂食前リターよりも保水性が高いことに起因すると考えられた.これらの結果に加え,飼育実験期間中の幼虫の体重増加量や呼吸量,マイクロコズム実験により測定された微生物呼吸速度を考慮したところ,カブトムシ幼虫によるリター分解は,摂食に伴う直接的な影響よりも,リターを糞に変換することや周囲の微生物による分解を促進する間接的な影響の方が大きいことが示唆された.