| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-155 (Poster presentation)
亜寒帯の湿地林は土壌に多くの有機物を保持し、その分解は大気中の二酸化炭素の調整に大きな影響を与える。しかし、土壌有機物の中でも特に分解の初期段階であるリター分解に対する小型動物の影響についての研究例は少ない。本研究では、北海道弟子屈町の落葉広葉樹湿地林において、3つの異なる林床環境で、葉リターの分解量と分解に関わる水生生物および土壌動物などの小型動物の関係について明らかにした。
調査対象は①湧き水で常に水に浸かっている冠水域、②雪解け水や雨水で一時的に冠水する半冠水域、③冠水しない非冠水域とした。これらの区域にコドラートを設置し(n=5)、2024年5月から11月まで、リターバック法(メッシュサイズ;0.01 mmおよび2 mm)でリターの分解量を、ハンドソーティングおよびツルグレン法で小型動物の個体数を調査した。
6か月間のリター分解量は冠水域で最も低く、非冠水域で最も高い値となった。この分解量を小型動物と微生物に分けると、小型動物による分解量は冠水域で最も高く、半冠水域で最も低かった。一方、微生物による分解量は非冠水域で最も高く、半冠水域で最も低かった。冠水域は小型動物の方が微生物よりも分解への寄与が大きく、半冠水域では逆の傾向、また非冠水域では同程度であった。さらにこれらの傾向は調査期間の前期と後期で異なった。
小型動物の総個体数は冠水域と非冠水域では同程度で、そのうちリター食者の割合は29%と58%であった。一方、半冠水域の総個体数は約10倍と非常に多く、そのうちのほとんどが菌食者および被食者で、リター食者は9%であった。リター食者の総個体数は半冠水域で最も多かったのにも関わらず、リター分解が最も遅かったという結果は、リター食者の捕食庄や繰り返し冠水する環境により、リター食者の分解活動が制限されている可能性を示している。以上の結果から、同一の湿地林内でも林床環境によってリターの分解メカニズムが異なることが明らかとなった。