| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-156 (Poster presentation)
マングローブ林に生息するオキナワアナジャコ(Thalassina anomala)は土壌を掘削し、1 m近くの塚を形成する。しかし、その掘削量や季節的な変化などについての知見は乏しい。本研究では、塚の形態を定期的に観測することで、オキナワアナジャコの掘削行動の特徴を明らかにするとともに、マングローブ生態系に与える影響を議論した。
調査地は沖縄県石垣島のガブルマタ川の流域で、オヒルギ (Bruguiera gymnorhiza) とヤエヤマヒルギ (Rhizophora stylosa) が優占するマングローブ林とした。2024年9月に林内において、目視やタイムラプスカメラなどによる塚の観察から、オキナワアナジャコの掘削行動の日変化を調査した。また、2024年9月および12月に、デジタルカメラを用いて複数の塚を対象に様々な角度から撮影し、3D画像を合成した。その画像の解析から塚高、塚底面積、塚体積を算出し、3か月間の変化を推定した。
その結果、掘削行動は主に夜間に観察された。特に塚周辺の土壌表面の冠水が始まると掘削行動を含めた活動が観察され始め、冠水が終わった直後が最も活発であった。その後、明け方に向かって活動は低下した。9月から12月の3か月間において、塚高や塚底面積、塚体積はそれぞれ増加する場合も、減少する場合も観察された。塚高の増加は、オキナワアナジャコの掘削や排出行動によるもので、減少は潮汐にともなう水の移動による崩壊が主な要因として考えられた。また、塚底面積の増加は掘削にともない上部の塚の出入口にあった土壌が下部へ崩落したこと、一方で減少は台風や大雨によって増水し、塚の地際周辺の土壌が流出したことが要因として考えられた。塚体積はこの塚高および塚底面積の両方の変化を受けたことによる。これらの結果から、オキナワアナジャコの掘削行動には、潮位変動が大きな影響を与え、また塚の形態変化には、オキナワアナジャコの掘削行動のほか、水の流れによる崩壊も大きく寄与していることが示された。