| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-159  (Poster presentation)

リン獲得形質の季節性:コナラとアラカシの細根ホスファターゼ活性【O】
Phenological pattern of a phosphorus acquisition trait: fine-root phosphatase activity of Quercus serrata and Quercus glauca【O】

*水上知佳, 小嶋慧, 青柳亮太, 小野田雄介(京大・森林生態)
*Chika MIZUKAMI, Satoru KOJIMA, Ryota AOYAGI, Yusuke ONODA(Kyoto Univ. Forest Ecology)

リン(P)は樹木の成長や繁殖に不可欠な栄養元素である。樹木の根は、土壌の有機態Pを加水分解し、リン酸を放出させる酵素(ホスファターゼ)を分泌するなど、効率的なP獲得を可能にする形質をもつ。樹木のP要求量は成長と繁殖の季節性に伴って変化し、P獲得形質も季節変動を示すと予想される。栄養獲得形質の季節変動の解明は、地上部と地下部の相互作用やフェノロジーの異なる樹種間のニッチ分化の理解に重要であるが、これまで研究は少ない。本研究はコナラ(落葉樹)とアラカシ(常緑樹)を対象にP獲得形質の季節変動と葉と土壌のP濃度を調べ、これらの関係を明らかにすることを目的とした。
京都市吉田山で2024年4月から2025年2月にかけて毎月、以下の内容で調査を行った。 土壌温度をセンサーとロガーで継続的に記録した。コナラとアラカシ5個体ずつ葉と細根を採取した。細根は2種類の細根ホスファターゼ活性(PME:ホスホモノエステラーゼ、PDE:ホスホジエステラーゼ)の測定に用いた。測定時の温度条件は採取日までの2週間の平均土壌温度、pH条件はバルク土壌の平均値を用いた。葉はP濃度を測定した。土壌は各個体周辺の表層5㎝をバルク土壌、細根から刷毛を用いて採取したものを根圏土壌とした。それぞれ無機態Pと有機態Pを測定した。個体をランダム効果に加えた一般化線形混合モデルを用いてPME・PDE活性の季節変動を調べた。
PME活性は月間に有意差が見られ、コナラでは7、8月に高まり、9月にやや低下し、その後に12月まで横ばいで、落葉後急激に低下した。アラカシでは8、9月に高まり、11月以降に徐々に低下した。PDE活性では両種で月間に差はなかったが、7月で高まる傾向が見られた。フェノロジーが異なる種間でP獲得形質の季節変動に違いがあることが分かった。ポスターでは葉と土壌のP濃度データを加え、地上部と地下部の関係、土壌との相互作用についてさらに詳しく発表する。


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