| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-161  (Poster presentation)

コクワガタ幼虫による窒素固定活性とその森林生態系における役割について【A】【O】
Nitrogen fixation by larvae of Dorcus rectus and its role in forest ecosystems【A】【O】

*杉江洸太朗, 保原達, 吉田磨, 松林圭(酪農学園大学)
*Kotaro SUGIE, Satoru HOBARA, Osamu YOSHIDA, Kei MATSUBAYASHI(Rakuno Gakuen University)

木食性昆虫は窒素濃度の低い木質組織を摂食するが、窒素を窒素固定細菌との共生によって補うものもいる。そのため、こうした木食性昆虫は窒素固定細菌との共生を通じて森林生態系に窒素を流入させる重要な役割を担っている可能性がある。コクワガタも幼虫が木食性であり枯死木を摂食し、窒素固定能力を有しているとされるが、窒素固定の程度や森林生態系への実質的影響は十分に検討されていない。そこで本研究は、コクワガタの幼虫飼育や現地調査をもとに、コクワガタが森林生態系の窒素循環に与える影響について明らかにすることを目的とした。
方法としては、まず野外採集した成虫から得た幼虫を用いて、瓶培養実験と産卵セット培養実験を行い、サンプルの窒素量および炭素量の増減比較を行った。また窒素固定活性を評価するため、アセチレン還元法により幼虫や幼虫の糞などの窒素固定速度を測定した。さらに野外に調査区を設定して、幼虫の個体密度を求め、幼虫培養実験とアセチレン還元法分析から得た推定窒素固定量を元に、コクワガタによる森林生態系への窒素固定量を推定した。
その結果、幼虫の瓶培養実験と産卵セット培養実験において、幼虫を飼育した区において窒素量は増加し、炭素量の増減は変わらなかった。アセチレン還元法の結果、3齢幼虫のみに窒素固定活性が見られ、おがくずや幼虫の糞などには活性が見られなかった。野外調査の結果、幼虫の個体数密度は0.8個体/m²であった。これらの結果をもとに幼虫の窒素固定量を推定したところ、0.02kg/ha/yearとなった。この値は、温帯林の窒素循環量と比較して微量であった。本研究結果から、コクワガタ幼虫が窒素固定を行うことが明らかとなったが、森林の窒素循環量に比してコクワガタによる窒素固定量は非常に小さかった。しかし、コクワガタ以外にも木食性昆虫は森林生態系には生息しており、それらに同様の活性があるとすると生態系の重要な窒素源となり得ると考えられた。


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