| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-164 (Poster presentation)
樹木の生産性は主にNH4+-NやNO3--Nなど無機態窒素の可給性で決まることから、その動態の調査は重要である。一般に温帯林では窒素制限がかかりやすく、特にNO3--Nの生成が少ない森林でその傾向が顕著だが、なぜ硝化が起こりにくいのか明らかではない。本研究では窒素無機化と硝化の主要な反応を担う土壌微生物を機能群ごとに分けることで、硝化が起こりにくい原因を解明できると考えた。また優占樹種や土壌母材の違いは土壌微生物の機能群ごとの組成に対して影響を与えると予想されるが、その影響は明らかではない。本研究は硝化が起こりにくい森林において、微生物の機能群ごとの組成に着目し、優占樹種と土壌母材が窒素無機化や硝化速度に与える影響を明らかにすることを目的とした。本研究では、タンパク質分解・アルギニン分解・尿素分解の窒素無機化の中でも主要な3つの反応に加えて、硝化の律速となるアンモニア酸化に着目し、それぞれN-acetylglucosaminidase、Arginase、Ureaseの3つの酵素を持つ細菌の遺伝子量や群集組成、硝化細菌・古細菌の遺伝子量を評価した。
調査の結果、①窒素無機化の各反応を担う細菌の群集組成は、優占樹種と土壌母材の影響で変化するが、推定遺伝子量は変化しないこと、②純窒素無機化速度は優占樹種と土壌母材の影響で変化したが、その速度は硝化が起こる他の地域の森林と比べて低くはないこと、③硝化古細菌の遺伝子量は優占樹種の影響で変化し、硝化細菌の遺伝子量は変化しないが、硝化菌の遺伝子量は硝化が起こる他の地域の森林と比べて少ないこと、④純硝化速度は硝化古細菌の遺伝子量が多い場所で高い傾向にあることが明らかとなった。これらのことから、窒素無機化の主要な反応を担う細菌の群集組成は変化するが、NH4+-Nは一定量生成されることから、基質不足が硝化の起こりにくい原因とはならない一方で、硝化が起こりにくい原因の一つは硝化菌量が少ないことであり、硝化古細菌量が多いと硝化に繋がることが示唆された。