| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-166 (Poster presentation)
北極域では全球平均の2~4倍の速度で温暖化が進行しており、このような急速な環境変化に対する植物の応答を解明することは、北極陸域生態系の将来的な炭素循環を予測するうえで極めて重要である。落葉性植物は北極陸域生態系の主要な生産者であるが、温暖化によって無雪期間が長期化する中で純一次生産量(NPP)がどのように変化するのかは未解明である。そこで本研究では、生育期間中の光合成活性の季節変化と葉のフェノロジーに着目し、温暖化によって落葉性北極植物のNPPがどのように変化するのか予測することを目的とした。調査地は高緯度北極スバールバル諸島Longyearbyen(78°12’N, 15°35’E)で、2024年の消雪は6月上旬、初積雪は9月中旬であった。野外調査では、スバールバル諸島に広く分布する落葉性植物3種を対象として、2024年7月7日から8月9日までの期間、3〜5日ごとに携行型光合成測定機器を用いて光飽和光合成速度を測定した。測定の結果、3種ともに7月下旬まで高い光合成速度を維持した後、多少の種間差があるものの、8月上旬には光合成速度が低下し始めることが明らかになった。光合成活性の低下は葉の黄化(老化)と同調しており、気温の低下がみられない時期に生じていたことから、温暖化で無雪期間が長期化したとしても、落葉するまでの日数(生育期間)は必ずしも長期化しない可能性が示唆された。一方で、温暖化による消雪の早まりは展葉開始時期を早めるため、落葉性植物の生育期間が前倒しになると考えられる。高緯度北極では8月中旬以降に光量が減少していく(極夜に向かう)ため、夏至付近の光環境の良い期間を有効に活用できるようになると、NPPが増加する可能性がある。この仮説を検証するために、光合成活性の季節変化を組み込んだNPP推定モデルを構築することによって、温暖化による温度上昇や無雪期間の長期化(特に消雪日の早まり)が落葉性高緯度北極植物のNPPに与える影響を予測した。