| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-167  (Poster presentation)

福島の放射能汚染地域における土壌中のセシウム移動と土壌動物の役割【A】【O】
Radiocesium transfer in soil and the role of soil animals in the radioactively contaminated area of Fukushima【A】【O】

*佐山葉(京都大学)
*Yo SAYAMA(Kyoto Univ.)

2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故により, 多量の放射性物質が環境中に放出された. 中でもセシウム137(137Cs)は放射性で物理的半減期が約30年と比較的長く, 長期に渡り生態系の動植物に影響を与え続ける可能性がある. 現在, 森林には土壌表層付近に最も多くの137Csが貯留されており, 分布・動態を継続的に把握する必要がある. 土壌中の137Csの下方移動において, 土壌の物理環境を改変する土壌動物の影響は無視できないと考えられるが, その詳細についてはこれまで明らかにされていない. 本研究は, 福島の森林土壌において, 土壌動物が137Csの下方移動にどのように関与しているかを明らかにすることを目的とする. 観察・実験においては, まず自ら土壌に穴を掘り生活する, 移動性の高い大型土壌動物種であるミミズの活動に着目した.
福島県中通り地方に位置する森林(帰還困難区域)においてミミズを採集した. ミミズ個体の137Cs濃度とその形態を調べるために, ゲルマニウム検出機による137Csの定量と, オートラジオグラフィ解析による高濃度放射性セシウム粒子(CsMPs)の検出を実施した. ミミズ個体の消化管の137Cs濃度は6.8〜31.6Bq/gで, 土壌からの移行係数は0.18〜0.48であった. また, 体内から高濃度放射性セシウム粒子が検出された個体があった.
土壌中の137Cs分布と生物の活動域の関係を調べる手法として, 土壌鉛直断面の薄片を作成した. 土壌試料をポリエチレングリコール樹脂で固め, 薄片を作成することで, 土壌中の生物の活動痕を破壊することなく観察することができた. 加えて, 土壌薄片に対してオートラジオグラフィ解析を実施し, 放射性物質の分布を定量評価した. その結果, 表層付近に137Cs分布が集中している一方, 深層にCsMPsが移送されていることが確認された.


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