| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-169 (Poster presentation)
近年、気候変動緩和策の1つとして、バイオマスを低酸素条件下で熱分解して生成した炭化物であるバイオチャーによる炭素隔離が有望視されている。しかし、バイオチャーを森林に散布した時の有機物分解の変化を調べた例は少なく、さらにその応答が森林タイプによって異なる可能性についても検証されていない。そこで本研究では、コナラ、スギ、アカマツの3つの森林タイプを模したポット栽培実験を行い、それぞれのバイオチャーが土壌呼吸(SR)と従属栄養生物呼吸(HR)に与える短期的な影響を定量的に評価することを目的とした。
本研究では、3つの森林それぞれの鉱質土壌、有機物を層別に入れ、各樹種の苗木(樹高70 cm程度)を移植したポットを作成した。各樹種から作製したバイオチャーを散布した区(散布量 10t/ha)と、非散布区を用意した。 SRとHRは密閉式チャンバー法により約1年半の間、毎月測定し、地温、土壌水分は連続測定した。また、栽培終了後の土壌について、土壌pHなどの物理化学性を測定した。
すべての森林タイプにおいてバイオチャー散布によるSR、HRの有意な変化は見られなかった。地温はいずれの森林タイプでもバイオチャー散布区でわずかに上昇した。土壌水分はバイオチャー散布によりコナラでは増加し、アカマツでは減少したが、スギでは有意差は無かった。また、土壌pHなどの土壌物理化学性に大きな変化は見られなかった。地温、土壌水分が変化したにも関わらず、SR、HRに変化が見られなかった理由として、今回の実験ではバイオチャー散布による地温の上昇がわずかであったこと(<0.3℃)や、一般的に土壌微生物活性に影響すると言われているpHに大きな増加が見られなかったことが考えられた。これらの結果は、バイオチャーを森林に散布しても分解系への影響が小さいことを意味しており、バイオチャーによる炭素隔離効果が十分に期待されると言える。