| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-170  (Poster presentation)

異なる植物機能群における葉群炭素・窒素動態の環境応答のシミュレーション【A】【O】
Simulation of environmental dependence of carbon and nitrogen dynamics in leaf canopies of different functional types【A】【O】

*城崎菜乃(東北大学), 田代萌(東北大学), 伊藤昭彦(東京大学), 彦坂幸毅(東北大学)
*Nano SHIROSAKI(Tohoku Univ.), Moe TASHIRO(Tohoku Univ.), Akihiko ITO(Tokyo Univ.), Kouki HIKOSAKA(Tohoku Univ.)

生態系の物質循環は地域および地球規模の物質循環にも影響を与えるため、その理解は生態系の現状把握や地球環境の予測において重要である。生態系物質循環モデルでは、植物の光合成や呼吸、葉の脱落によるリター放出、微生物による分解などの炭素フローと、植物の窒素吸収、リター放出、無機化などの窒素フローを数式で表わし、統合している。モデルの高精度化においては、植物体内での炭素フローと窒素フローの統合が課題の1つとなっている。多くのモデルでは、植物体内の炭素フローと窒素フローは独立として扱われているか、単純な経験式で両者が連結されている。一方、実際の植物では、炭素と窒素が密接に相互作用することで、窒素条件や大気CO2濃度に応じて生理的パフォーマンスや葉群構造が変化している。これまでの実験研究では、大気CO2濃度の上昇に対しては、光合成速度は増加するが、葉面積指数(LAI)は大きく変化せず、葉の窒素濃度が低下する。また、窒素施肥に対しては、葉窒素濃度、光合成速度、LAIの全てが増加することが知られている。しかし、これまでの炭素フローと窒素フローの統合を試みたモデルでは、実際の植物の環境応答を十分に再現できていない可能性がある。Hikosaka(2003)は、葉の生産・枯死による葉群炭素・窒素動態モデルに最適化理論を導入し、環境応答をより正確に表現するモデルを提案した。本研究では、このモデルを発展させ、簡略化されていた光合成の環境応答を精緻化し、草本とは異なる葉群動態をもつ常緑樹・落葉樹のモデルを新たに構築した。これらの各植物機能群の葉群動態モデルを用い、高CO2濃度および窒素施肥条件下での葉群動態の応答を予測したところ、先行研究の結果と整合する結果を得られた。本研究の結果からは、LAIの最適化による葉群炭素・窒素動態モデルは、現実的な植生の環境応答を表現しうることが示され、生態系規模の予測精度の向上にも貢献することが期待される。


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