| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-171 (Poster presentation)
マングローブ林は、熱帯・亜熱帯気候により生じる高い純一次生産量と、潮汐が作り出す嫌気的な堆積物環境によって従属栄養生物呼吸量が低いことから、炭素蓄積量が非常に大きいとされてきた。一方で、マングローブ林では海水が定期的に地表面を覆うため、有機物分解で生じたCO2が水に溶けて溶存無機炭素(DIC)となり、海洋生態系へ多量に流出することが指摘されている。堆積物からのDIC流出経路として、林床に開いたベントス(底生生物)の巣穴が挙げられる。潮汐の度に巣穴に水が出入りすることで、堆積物中の水交換が促進され、高濃度のDICを含む間隙水が排出されると考えられている。近年、DIC流出に関する報告が増えているが、巣穴による寄与に着目した知見はほとんどない。そこで本研究では、巣穴の形状等の基礎情報と巣穴内の水に含まれるDIC濃度の経時的変化を明らかにすることを目的とした。
沖縄県石垣島がぶるまた川河口域のマングローブ林にて、ベントス巣穴の基礎情報を得るための調査を行った。巣穴に樹脂を流して型取りを行なった後、3Dスキャンにより体積と表面積を測定した。また巣穴内のDIC濃度を調べるため、別の巣穴を用いて、一度の干満サイクルの間に巣穴内部の水を経時的に採取し、DIC濃度を測定した。
型取りの結果、巣穴はU字型やJ字型と単純な形状から、緩やかな螺旋形状、複雑な形状(縦に長く入り組み、分岐多数)、水平方向に展開した形状も確認できた。これらの巣穴の形状や、3Dスキャンから得られた比表面積などの定量的な特性は、巣穴を掘ったベントス種と関連している可能性がある。巣穴内のDIC濃度は2.4-7.4 mmol C L-1と巣穴によって大きく異なっており、干満の間であまり経時変化は見られなかった。以上の結果に基づき、巣穴の形状とDIC濃度の関係性を解析するとともに、巣穴がDIC流出にどの程度寄与しているのかを考察した。