| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-172  (Poster presentation)

ミミズは土壌中の放射性セシウムの存在形態に影響を与えるか?【O】
Do earthworms affect the forms of radiocesium in soil?【O】

*田中草太(秋田県立大学), 伊藤陽日葵(秋田県立大学), 塚田祥文(福島大学)
*Sota TANAKA(Akita Prefectural Univ.), Hibiki ITO(Akita Prefectural Univ.), Hirofumi TSUKADA(Fukushima Univ.)

 ミミズが生息する土壌表層には、森林内の放射性セシウム(RCs)の9割以上が存在する。この土壌表層の有機物と鉱物を摂食して排泄するミミズは、有機物と鉱物の複合体であるフン団粒を形成する。近年、この有機物と鉱物の複合体であるマクロ団粒内に生物利用可能なRCsが隔離される可能性が指摘されており、ミミズによる団粒形成もRCsの移行挙動に影響を与える要素となる可能性がある。しかし、これまでにその影響が評価された例はなく、ミミズがRCsの存在形態に与える影響は不明である。本研究では、福島県で採集したミミズと土壌を用いた培養実験系を構築し、ミミズが土壌中の137Csの存在形態に与える影響を評価することを目的とした。
 サンプリングは2024年9月に実施し、原発から北西40kmに位置する落葉広葉樹と主とする山林内で、表層種のフトミミズ科のミミズを見取り法により採集した。供試土壌には、原発から北西11kmの落葉広葉樹林内の表層土壌(0-5cm)を用いた。土壌は風乾後2mmで篩別し、800mL円柱容器に200gを充填して、土壌水分を最大容水量の60%に調整した。この容器にミミズを投入するミミズ区と投入しない対照区を設定し、20℃暗所で2週間培養後に土壌を比較した。フン団粒内へのRCsの取り込みは、オートラジオグラフィにより可視化した。また、137Csの存在形態を逐次抽出法により交換態画分、有機物結合画分、および強固結合画分に分別した。オートラジオグラフィの結果、土壌中のRCsは、ミミズのフン団粒内に取り込まれることが確認された。また、フン団粒内の137Csの約90%が土壌中の粘土鉱物に吸着された強固結合態画分として存在することが判明した。この値は、対照区の土壌と同程度であり、交換態および有機物結合態画分の割合においても変化は認められなかった。この結果から、培養2週間ではミミズはRCsの存在形態割合に大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。


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