| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-174 (Poster presentation)
バイオチャーは、有機物を低酸素条件下で炭化したものであり、分解が遅いため炭素隔離効果をもつ。森林土壌はバイオチャーの有効な施用場所とされているが、施用により土壌微生物の活動が促進されて従属栄養生物呼吸(HR)が増加し、結果として炭素隔離効果が減少する可能性も指摘されている。森林土壌は層構造をもち、層間の物質輸送には浸透水(雨水)が関与しているが、これらを考慮してバイオチャーの影響を調べた研究はほとんどない。そこで、本研究では、層ごとの土壌特性の変化や浸透水の化学性の変化に着目し、バイオチャーがHRに影響を及ぼすメカニズムを解明することを目的とした。
埼玉県本庄市内のコナラ林土壌(上から順にL層、FH層、A層)を用いて2回の培養実験を行った。実験1(64日間)では、3層に分離できるポットを製作し、各層のHRと重量含水率を測定した。バイオチャーはL層の上から散布した。HRは密閉法により測定し、実験終了後には土壌特性を分析した。実験2(30日間)では、①L層のみ、②L層+FH層、③L層+FH層+A層、からなる3種類のポットを製作し、バイオチャーをL層の下に散布した。HRとL層のポットの重量含水率を測定したほか、5日ごとに水を添加して浸透水の化学性(pH・溶存有機炭素濃度)を測定した。実験の15日目と終了後には土壌特性を分析した。
バイオチャー散布により、L層のHRが増加した。また、実験1ではバイオチャーを含むL層の含水率とpHが上昇した。さらに、リターの微生物バイオマス炭素量も増加し、これは含水率やpHの上昇に起因すると考えられた。一方、FH層およびA層のHRと土壌特性、各ポットの浸透水の化学性に対するバイオチャーの影響は概して小さかった。
本研究の結果、バイオチャー散布によりL層のHRが増加することがわかり、そのメカニズムは、含水率・pHの上昇と、それによる微生物バイオマスの増加であることが示唆された。しかし、バイオチャーが浸透水を介して下側の層に及ぼす影響が大きいとはいえなかった。