| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-176 (Poster presentation)
水田転換畑のダイズ栽培では、土壌物理性改善や窒素供給を目的としてマメ科緑肥のヘアリーベッチ(HV)が導入されている。HVはC/N比が低く、土壌中で急速に分解が進行する。そのため、HV由来窒素はダイズの播種後30日程度で微生物の代謝により植物が利用しにくい形態となる。一方、ダイズは開花期(播種後60日)以降に窒素要求量が高まるため、HV由来窒素が適期に供給されないことが問題となる。ミミズはフン団粒内に有機物を物理的に隔離して分解を抑制するため、ダイズへのHV由来窒素の供給に影響を及ぼす可能性がある。しかし、水田転換畑では、ミミズがHV由来窒素の動態に与える影響は明らかになっていない。本研究では、15Nトレーサー実験によりダイズとフン団粒内に取り込まれるHV由来窒素を追跡することで、ミミズがHV由来窒素の動態に及ぼす影響を評価することを目的とした。
1/10000aポットに粒径2 mm以下の風乾土壌600 gを充填し、含水比60%とした。15N標識HV粉末を土壌表面に敷設し、ポット内のミミズ密度を0 g-fw/m2(対照区)、40 g-fw/m2(圃場密度区)、650 g-fw/m2(過密区)とした。20℃暗所で2週間培養後、ダイズを播種して20℃(明暗条件LD=12:12)で5週間栽培した。ミミズによる土壌物理性改変の指標として、2 mm以上の耐水性団粒をフン団粒と定義した。また、試料中の15Nを分析し、HV由来窒素のダイズとフン団粒への分配率を評価した。
団粒割合は、対照区2.9%、圃場密度区7.8%、過密区35%となり、ミミズの存在で有意に増加した。団粒内のHV由来窒素の分配率は、各17%、40%、35%を示した。また、ダイズへのHV由来窒素の分配率は、各7.6%、4.3%、5.5%を示した。この結果は、フン団粒内に隔離されたHV由来窒素の無機化が遅れたことで、ダイズへの分配率が減少したことを示唆する。本研究により、ミミズはHV由来窒素の無機化を抑制し、ダイズの開花期以降に窒素供給量を増加させる可能性があることが示された。