| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-179  (Poster presentation)

枯死木分解過程における中大型動物の役割を考える:サルの行動と枯死木の体積減少【O】
Roles of medium and large-sized animals in decomposition processes of deadwood: Impacts of primate behavior on deadwood decomposition rates【O】

*栗原洋介(静岡大学)
*Yosuke KURIHARA(Shizuoka Univ.)

枯死木(粗大木質リター)は森林生態系において生物多様性や物質循環を支えるなどの重要な役割を果たしている。枯死木の分解過程では細菌から脊椎動物まで多様な生物が関与することが知られているが、枯死木と中大型動物の関わりについてはほとんどわかっていない。その一方で、中大型動物が枯死木に生息する節足動物を採食することは報告されており、採食の過程で枯死木の細片化に貢献している可能性がある。本研究の目的は、中大型哺乳類の行動が枯死木の体積減少にあたえる影響を解明することである。鹿児島県・屋久島の暖温帯常緑広葉樹林において、林内 20 か所に分解後期のマテバシイ白色腐朽材を設置し、2019 年 12 月から 2024 年 9 月まで定期的に材の体積を計測した。対象の材は 2 分割して、一方は動物が壊せないように防獣ネットをかけ、もう一方はそのまま放置した。屋久島では 1980 年代からニホンザルによる枯死木破壊行動が報告されているため、自動撮影カメラを用いて、材を訪れるサルの行動(材を壊す、踏む、など)を記録した。また、同程度の腐朽度の材を対象として、枯死木に生息する節足動物の種と個体数を記録した。防獣ネットをかけずにそのまま放置した材は、動物が壊せないようにネットをかけた材に比べて、体積減少が速かった。そのまま放置したすべての材がサルによる破壊を受け、それにより体積が大きく減少した。分解後期の枯死木からはコウチュウ目、ハチ目、ゴキブリ目といった、これまでサルによる採食が報告されている昆虫が頻繁に得られた。本研究の結果より、枯死木はニホンザルにとって魅力的な採食場所であり、ニホンザルが昆虫を探索する過程で枯死木を細片化することによって、枯死木の分解が促進されることが示唆された。


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