| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-186 (Poster presentation)
マングローブ林では、林床に供給されたリターフォールの80%以上が引き潮時に系外へと流亡する。底生無脊椎動物による林床リターの摂食行動は、リターの系外流亡量を減らして土壌炭素の増加に寄与、またリターに含まれるポリフェノール類の土壌への加入と有機錯体鉄の生成(沿岸生態系の生産性を増加させる)を促進することが知られている。カニ類が総リターフォール量の数十%に当たるリターを摂食することが知られているが、マングローブ林に多数生息し冠水時でもリターを摂食できる唯一の生物である巻貝キバウミニナについては、そのリター摂食特性はよく分かっていない。そこで、キバウミニナがマングローブ林のリター動態に及ぼす影響を明らかにするために、西表島後良川のマングローブ林において、リターフォール量、林床リター量、キバウミニナの個体群構造とリター摂食速度を調べた。
キバウミニナは、海側の森林(ヒルギダマシとハマザクロ林)ではデトリタス食である幼貝が多かったが、ヒルギ科の森林(ヤエヤマヒルギとオヒルギ林)ではリター食である成貝が多く、最内陸のサキシマスオウノキ林にはいなかった。キバウミニナによるリターの摂食速度は、冬より夏、小個体より大個体、満潮より干潮時のほうが速かった。摂食速度はリターの種類によっても異なり、ヒルギダマシが最低、ハマザクロとヤエヤマヒルギで高くオヒルギはその中間であった。キバウミニナによる潜在的な年間リター摂食量は、14-32 Mg/ha/年にも達した。一方、リターフォール量は4.9-10.5 Mg/ha/年であった。林床リター量は0.1-1.1 Mg/haで、キバウミニナの成貝が多いヒルギ科森林ではリター摂食の影響により葉リターの割合が極端に低かった。これらの値から、キバウミニナは総リターフォール量の2.3-4.0倍、林床リターを0.5-2.7日で全て消費できる速度でリターを摂食しており、マングローブ林のリター動態において重要な役割を果たしていることが分かった。