| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-187 (Poster presentation)
森林生態系へのバイオチャーの散布は、有機物の炭化による炭素貯留に加え、生態系の炭素吸収量をも増加させることが期待されている。しかし、様々な森林タイプを対象にそれを実証した研究例は少ない。本研究では、日本で広く見られるコナラ、スギ、アカマツ林にバイオチャーを散布することを想定し、生態系を模したポット実験により、バイオチャー散布が樹木の生長に与える影響を明らかにすることを目的とした。
調査は東京都町田市玉川学園キャンパス内の圃場で行った。ポット実験には、各樹種の稚樹と、それぞれが優占する森林から採取した土壌を用いた。散布するバイオチャーは各林分から集められた枯死木をウッドチップにしたものを母材とし、簡易式炭化炉を用いて炭化(炭化温度350℃~600℃)させたものを使用した。作成したバイオチャーを散布したポットと対照ポット(n=8)を2年半にわたり栽培し、継続的に稚樹の地際直径と樹高を、最後に刈り取りを行い、バイオマス量を器官別(葉、枝、根)に測定した。また、環境要因として地温と土壌含水率を定期的に測定した。
その結果、コナラは地際直径のみ、スギとアカマツは地際直径と樹高ともに栽培期間を通して大きくなる傾向であった。また、栽培終了時のバイオマス量は、どの樹種においても散布区の方が多い傾向であった。樹種によって散布区と対照区で収量の差が大きくなる器官は異なり、コナラでは根、スギでは枝、アカマツで葉でより大きかった。これらの結果は、バイオチャーを散布したことにより、炭に含まれていた一部の成分が栄養源として機能したことや土壌の保水性が変化したことなどの影響によるものと考えられる。以上のことから、森林生態系へのバイオチャー散布は、どの森林タイプにおいても樹木の成長に負の影響は与えず、炭素隔離のための方策として有効である可能性が示された。