| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-188 (Poster presentation)
バイオチャーとは有機物を低酸素条件で熱分解して生成した炭化物であり、土壌に散布することで炭素隔離効果や植物の生産性向上が期待されている。一方で土壌中の窒素(N)循環に影響を及ぼし、土壌中の無機態Nを減少させる可能性も指摘されている。本研究ではそのメカニズムの1つとして考えられるバイオチャーによる無機態Nの吸着を明らかにすることを目的として、野外に散布されたバイオチャー試料の分析を行った。またバイオチャーが土壌圏のN循環に及ぼす影響の解明を目的として、森林の土壌構造を模したポットを作製し培養実験を行った。
調査地は埼玉県本庄市の暖温帯落葉広葉樹林である。この調査地には散布した年が異なるプロットが複数設置されており、これらの調査区からバイオチャーを適宜回収することで、結果的に森林への散布から1-96か月(8年)経過したバイオチャー試料を得た。上記のバイオチャー試料を用いて硝酸態N量、アンモニア態N量、有機態N量(無機化の基質)、N最大吸着容量、無機態N放出量を測定した。また培養実験では土壌・浸透水中の無機態Nの分析を行った。
野外から回収したバイオチャーに含まれる硝酸態N、アンモニア態N、有機態Nは散布前と比較して増加傾向であった。またその吸着量はN最大吸着容量の2割に満たず、放出量も吸着量より少なかった。このことから、林床に散布されたバイオチャーがN吸着の場となっており、土壌中無機態Nの減少に寄与していると考えられた。また、培養実験ではバイオチャー散布ポットにおける土壌中の硝酸態Nが増加し、アンモニア態Nは減少したことから、バイオチャーの散布は土壌中の硝化を促進させる可能性が示された。以上の結果から、バイオチャーは炭素隔離や土壌改良に有効である一方、土壌中の無機態・有機態Nの減少を引き起こす可能性が示唆された。よってその影響を考慮した適切な利用が求められる。