| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-189  (Poster presentation)

海草帯における陸域起源物質の捕捉機能とその生態系影響【O】
Assessing the function of capturing terrestrial materials in seagrass beds and its ecological impacts【O】

*梅林奎輔(東京農工大学), 梅澤有(東京農工大学), 佐藤允昭(水産研究・教育機構), 宮田達(東京農工大学), 上羽涼太郎(東京農工大学), Han LYU(TUAT), 杉原創(東京農工大学), 中村友里(東京農工大学), 大津直子(東京農工大学), 宮島利宏(東京大学・大気海洋研)
*Keisuke UMEBAYASHI(TUAT), Yu UMEZAWA(TUAT), Masaaki SATO(FRA), Toru MIYATA(TUAT), Ryotaro UEBA(TUAT), Han LYU(TUAT), Soh SUGIHARA(TUAT), Yuri NAKAMURA(TUAT), Naoko OHTSU(TUAT), Toshihiro MIYAJIMA(AORI, UTokyo)

熱帯から亜熱帯の島嶼地域において、土地開発によって流出した陸域土壌(赤土)がサンゴの生育に悪影響を与え問題となっている。三次元的に複雑な構造もつ海草藻場は、物理攪乱量を減少させ、赤土を含めた細粒子を捕捉し海底へと堆積させる。本研究では、パラオ共和国オギワル州沿岸において、静穏海況時および荒天海況時の海草藻場における赤土堆積動態について調査を行った。
面的な赤土堆積状況を確認するため、13地点で海底の表層堆積物を採取した。また、数地点の海草帯および裸地にセジメントトラップも設置し、現場の沈降量を調べた。さらに、物理攪乱量を測定するために石膏球も付近に設置し、水深の測定も行った。表層堆積物およびセジメントトラップの内容物は、粒度測定(ふるい, レーザー回析)および元素測定(ICP-OES,元素分析装置)を行った。その結果、河口付近ではシルト画分の粒子が多く、AlやFe、Si濃度が高い値を示した。河口から離れるにつれAlやFe、Si濃度は減少し、砂画分粒子が増加、Ca濃度が高くなった。したがって、粒度や各種元素濃度から、陸域由来物質の負荷量を推定した。
本研究の結果、静穏海況時は海草帯および裸地への赤土の沈降量に差は見られなかったが、荒天海況時は、裸地に比べ海草帯の方が赤土の沈降量が増加していた。したがって、海草帯は荒天海況時における赤土の拡散防止において重要な役割を果たしていることが分かった。
本研究では、さらに上記の内容に加えて、赤土の堆積が海草体内の元素組成へ与える影響についても調査を行った。堆積物を採取した地点で、ウミショウブ(Enhalus acoroides)を採取し、それぞれの元素濃度について多地点で比較した。その結果、植物にとって有用なMnやFeの濃度が赤土負荷量の多い地点で高かった。したがって、微量金属の含有量が少ないサンゴ礁堆積物では、海草による赤土の捕捉機能が自身の生育に対しても有益な影響をもたらしている可能性を示唆している。


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