| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-190 (Poster presentation)
交雑帯における遺伝型・表現型の勾配は、異質な環境での交雑と選択によって異なる。温帯種のカスミザクラと冷温帯種のオオヤマザクラは、標高傾度に沿って交雑帯を形成する。カスミとオオヤマの地理的分布は大きく重なり、日本の広い緯度範囲に渡って交雑帯が位置する。交雑帯における遺伝型・表現型の変異を、オオヤマの南限(南サイト)、カスミの北限(北サイト)、両種の中央部(中サイト)で調べた。
北・中サイトよりも南サイトで、核マイクロサテライト遺伝型におけるカスミとオオヤマの遺伝的分化が低く、両種の交雑個体の割合が高かった。葉のトライコームの密度の種間差は、北・中サイトよりも南サイトで小さかった。同じ標高における開花期は、中サイトでオオヤマがカスミより約7日早く、北・南サイトでは約9日早かった。
これらの結果は、南サイトでのより激しい遺伝的な混合が、開花期の違いが維持されているにもかかわらず、ある葉形質の表現型の浸透をもたらしていることを示している。この知見は、最終氷期以降の温暖化にともない分布が後退してきた南限の交雑帯において、生殖隔離に寄与する形質を除き、遺伝的な混合と表現型の浸透が促進されていたことを示唆する。