| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-191 (Poster presentation)
無性生殖によって同一クローン集団を形成する北米産イソギンチャクAnthopleura elegantissima では繁殖分業が知られている。本種の局所的分布パターンは特徴的であり、繁殖型(生殖腺が発達した個体)と兵隊型(武器形質が発達した個体)が、それぞれ集団の中心付近と縁辺部に分布し、異なるクローン集団間には緩衝地帯が形成される。一方、国内に生息する同属のヒオドシイソギンチャクも無性生殖を行うが、繁殖分業や局所的分布パターンに関する知見はない。そこで演者は、野外における各個体の武器形質の数と座標を記録して、本種でも兵隊型が存在することと、異なるクローン間で緩衝地帯が見られることを確認した。
本研究の目的は、上記の2種に見られる緩衝地帯を含む局所的分布パターンの形成メカニズムを理論的に解明することである。まず、個体の振る舞い(分裂、移動、自然死亡)とクローン間相互作用(ディスプレイ、逃避、闘争、闘争死亡、兵隊化)に注目し、これらの要因による自己組織化のアトラクタとして局所的な分布パターンが生じているという仮説を立てた。次に、この仮説を検証するために、野外調査と飼育観察の結果に基づいた一連の行動規則を作成した。そして、すべての個体がこの行動規則に従うという条件のもとでシミュレーションを実行し、緩衝地帯を生み出す十分条件を解明した。さらに、生成された分布パターンを分類し、遷移グラフを作成することで各パラメータが分布パターンに与える影響を定性的に解析した。その結果、パラメータ間に類似点や相違点があることや、これらの相互作用が分布パターンに大きな影響を与える可能性があることが明らかとなった。