| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-197  (Poster presentation)

光誘引行動と都市化の関係:カブトムシの場合【O】
Relationship Between Light Attraction Behavior and Urbanization: A Case Study of Trypoxylus dichotomus septentrionalis【O】

*山本知希, 小池文人(横浜国立大学大学院)
*Tomoki YAMAMOTO, FUMITO KOIKE(Yokohama National University)

都市化の進展に伴い、夜間照明(Artificial Light At Night: ALAN)が増加し、夜行性の飛翔性昆虫に影響を及ぼしている。採餌や交尾行動の妨害、捕食リスクの増加などを引き起こすため、都市環境において光誘引性に選択圧がかかる 可能性が指摘されている。蛾を対象とした先行研究では、夜間照明が多く存在する都市部の個体の光誘引性が低下する方向の進化を示唆する結果が得られている。しかし、異なる分類群における光誘引行動の進化は検証されていない。本研究では、都市にも生息するカブトムシ(Trypoxylus dichotomus septentrionalis)を対象とし、都市化の進行が光誘引性の進化に及ぼす影響を評価した。

神奈川県内のALANが異なる12地点でカブトムシを採集した。ALANの強度を都市化指標としたカブトムシの分布の解析を行ない、また誘引された個体とされなかった個体の体サイズを比較し、光誘引行動との関係を分析した。最後に、異なるALAN環境の地域で採集した集団の誘引行動を測定し、集団間の違いを検証した。
その結果、カブトムシは都市から森林地域まで分布するが中間に多い傾向が確認された。また、光誘引行動は性別によって異なり、オスよりもメスの方が有意に誘引されやすかった。一方、誘引された個体とされなかった個体の間で体サイズに有意な差は認められなかった。採集地のALAN強度が光誘引行動に与える影響は確認されなかった。これらの結果から、先行研究の蛾類と異なり、カブトムシはALANによる光誘引行動への選択を受けにくい可能性が示唆された。これは、カブトムシの硬い外骨格や夜間照明下における捕食圧の低さなどが影響している可能性がある。本研究は、光害が進化に与える 影響が昆虫の分類群ごとに異なる可能性を示し、ALANの影響を評価する際には種差 を考慮する必要があることを示唆している。


日本生態学会