| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-198 (Poster presentation)
サンゴ捕食者であるオニヒトデの大量発生はサンゴ礁生態系における脅威の1つである。オニヒトデのサンゴの認識・捕食の分子メカニズムを解明することは、オニヒトデの分子生態学的知見に基づいた効果的なサンゴ食害対策の構築に繋がる。そこで本研究では、一般的にヒトデが嗅覚で餌を探索することに着眼し、イシサンゴを食べるオニヒトデとイシサンゴを好んでは食べない近縁種であるアカオニヒトデを含む12種15個体のヒトデ類で機能的嗅覚受容体(OR)様遺伝子の同定とそれに基づくオニヒトデ特異的なOR様遺伝子の探索を行った。またRNA-seq解析により、実際にそれらの機能的OR様遺伝子が発現しているかどうかを確認した上で、サンゴを与えた時と与えなかった時のオニヒトデの嗅覚器官上でのOR様遺伝子発現の差次解析を行った。まず、オニヒトデは個体によりばらつきがあるものの476~511個の機能的OR様遺伝子を有していた。系統解析を行った結果オニヒトデのみで特異的に存在するOR様遺伝子や重複するOR様遺伝子が確認できた。次にRNA-seq解析で、全サンプルの合計リードカウント数が10以上の場合に発現遺伝子とみなすような条件で、オニヒトデの嗅覚器官である感覚触手を対象に、サンゴを与えた時と与えない時の両方の条件を含む16検体において発現遺伝子を検出した。その結果、同定された511個の機能的OR様遺伝子のうち261個が実際に発現していることが確認できた。また、サンゴの匂いに曝していない時と比べて、サンゴの匂いに晒した時に発現量が増加するOR様遺伝子が1つ見つかり、興味深いことに、この遺伝子はサンゴを好んで食べないアカオニヒトデは1つしか持たないが、サンゴ捕食者のオニヒトデで重複しており、サンゴ食への進化との関係が示唆された。今後はORの機能解明及びサンゴ側の追加実験・解析を行うことで、更なる食害対策の基盤となる知見の提供を目指す。