| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-199  (Poster presentation)

佐渡島と本州におけるカタクリの形態と遺伝的分化【A】【O】
Morphological and Genetic Divergence of Erythronium japonicum between Sado Island and the mainland【A】【O】

*多田民生(新潟大学), 蕪木史弦(新潟大学), 田口裕哉(東北大学), 髙橋大樹(九州大学), 樋口裕美子(京都大学), 陶山佳久(東北大学), 阿部晴恵(新潟大学)
*Tamio TADA(Niigata Univ.), Shigen KABURAGI(Niigata Univ.), Hiroya TAGUCHI(Tohoku Univ.), Daiki TAKAHASHI(Kyusyu Univ.), Yumiko HIGUCHI(Kyoto Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Harue ABE(Niigata Univ.)

 海洋島の生物には、アイランドシンドロームと呼ばれる共通した特徴が見られ、その解明は進化学的に重要な課題である。アイランドシンドロームの要因として、生物相や環境条件が大陸とは異なることが想定される。佐渡島は本土と地理的に近いが、長期間分断されていたため、様々な分類群にて本土集団との形態変異が確認されている。本研究では、佐渡島で形態変異が見られるユリ科植物であるカタクリを対象に、島嶼環境における植物の進化現象とその背景を考察した。
 形態解析では、32地点533サンプルを対象に、2項目の葉形態と3項目の花形態を測定した。これらを集団間で比較し、佐渡集団の形態的特徴づけを行った。遺伝解析では、佐渡島と本土の33地点と中国吉林省の1サンプルの計125サンプルを対象とし、MIG-seq法によりゲノムワイドSNPデータを取得した。これにより、佐渡島と本土間で遺伝構造を比較するとともに、集団間の分化の歴史や過程を推察した。加えて、一般化線形混合モデルを用いて遺伝構造が形質に及ぼす影響を検証した。
 形態測定の結果、佐渡集団は本土集団と比較して葉の単位面積あたりの斑が占める割合が著しく低いことが確認された。また、小佐渡集団は全形質で他集団と異なり、独自性が示された。遺伝解析では、佐渡集団は本土集団と明確に分化しており、本土集団には複数のクラスターが含まれることが示唆された。また、佐渡集団は約50,000年前に本土集団と分岐し、約20,000年前に完全に分化したことが示された。さらに、地域ごとのランダム効果を考慮した解析を行い、遺伝構造や環境要因が形態変異に寄与している可能性が示唆された。しかし、空間的な影響については明確に評価しておらず、今後の検討課題である。本土集団との遺伝子流動が早期に途絶えた小佐渡集団では、花や葉の大型化が見られた。草本の花や葉形質の大型化は佐渡島におけるアイランドシンドロームである可能性があり、今後は複数種で検証を行う。


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