| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-200 (Poster presentation)
現在知られている感染症の大半が人獣共通感染症由来であり、生態系の変化とグローバル化により新興感染症の危険性は増していると言われている。そのため感染症対策には医学や薬学だけでなく、生態系内の感染症の把握やその分布・動態の理解が必要となる。従来、感染症の生態学にはマクロな視点からのSIRのような区画モデルや広域スケールでの統計・平均化、希釈効果のような抽象モデルが用いられることが多い。しかしながら、生態系内における感染症の把握にはマクロ視点以外に、より高解像度な空間、時間、そして個体間でのプロセスがマクロの分布や動態へ大きく影響を与えることがある。
例えば食物連鎖を通じ感染する寄生種において、宿主が寄生者を持ちうる獲物を選り好んで狩る行動をとるほうが感染を促進すると想定されることが多い。しかしエキノコックスの感染動態を再現した個体ベースモデルを用いた解析では、条件によっては獲物の選り好みが感染頻度を抑制する結果が観測された。これには地形や群集の構造・分布、寄生者による宿主操作の有無やそのタイミング、そして個体別の感染強度などの要素との相互作用があり、区画モデルのようなマクロ視点から把握するのは難しい。
もう一つの例では、離散的なホットスポットによって感染が維持されている場合が想定される。パッチ上に宿主が空間分布している背景や、他の外的要因の存在から、多くの寄生者において実際の感染は局所的に生じる。極端な事例では、糞線虫の一種が都市緑地にて維持されているケースや、東京都心において広東住血線虫がスポット的に出現するケースが挙げられる。これらの事例は、微生息環境にまで解像度を高めた調査デザインやヒト側の活動を加味したモデル構築が求められることを意味する。