| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-201 (Poster presentation)
日本の河川にはオショロコマとイワナの2種のイワナ属魚類が生息する。両者が共存する河川においても、これら2種間で交雑が生じるという報告はなかったが、2000年代初頭にオショロコマ単独域として知られる北海道の知床半島において、一部のオショロコマがイワナ型のmtDNAを持つことが判明した。しかし、イワナ型mtDNAの存在がオショロコマの表現型や行動といった適応度形質にどのような影響を与えるのかについては不明である。本研究では、知床半島のオショロコマを対象とし、イワナ型mtDNAを持つ個体とオショロコマ型mtDNAを持つ個体との間で外部形態に相違があるかどうかを調べた。
調査は2024年6月~8月に知床半島の12水系において実施した。計234個体のオショロコマを捕獲し、写真を撮影した後にDNA標本としての鰭の一部を採取した。各個体の画像データから、ランドマーク法を用いて外部形態を数値化した。その後、外部形態がmtDNAグループによって異なるかどうかを、河川をランダム効果とした一般化線形混合モデルを用いて解析した。
その結果、イワナ型mtDNAを持つオショロコマ(43個体)は、オショロコマ型mtDNAを持つ個体(191個体)と比較すると、上向きの顎・大きな眼・広い側線下領域・前方に付いた脂鰭・後方に付いた臀鰭という特徴に加え、魚体後部が細い傾向にあった。このような上向きの顎と大きな眼は、流下する陸生昆虫を餌として利用するのに適した形態であると考えられる。また、魚体形状や鰭の位置の変化は、遊泳特性に影響を及ぼすと考えられる。mtDNA型が摂食や遊泳に関連する外部形態と関係することは、当地域のオショロコマにおけるmtDNA型が自然選択に対して必ずしも中立とは限らないことを示唆する。しかし、見出された形態の差は僅かであり、この違いがどの程度まで適応度に影響を及ぼすのかは今後検討する必要がある。