| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-202 (Poster presentation)
自然界では限られた資源をめぐる個体間の闘争がしばしば生じる。このような資源をめぐる闘争は、資源自体の利益と闘争にかかるコストの観点から、特に闘争への投資量に注目して研究されてきた。先行研究では闘争のコストは、自身の戦略や闘争の敗者個体の戦略で決まると仮定してきた。しかし、実際の闘争の例を考えると、コストが闘争相手の戦略や闘争の勝者個体の戦略で決まる場合も考えられる。このことは、先行研究でのコストの仮定は限定的な場合にしか妥当といえず、自然界の闘争を包括的に理解するためには、より一般化されたコストの決まり方を考える必要があることを意味する。本研究では、闘争におけるコストを一般化するために、コストに寄与する要素を自身の闘争への投資量、闘争相手の投資量、闘争の勝者個体の投資量、闘争の敗者個体の投資量の4つに整理し、それらの比で決まるとした。資源を獲得する利益と闘争のコストの差で求まる利得の期待値を適応度とみなし、適応ダイナミクスと数値シミュレーションの2つの手法を用いて解析した。
結果、コストに寄与する要素に応じて、闘争への投資量の進化動態は大きく異なった。集団の投資量が単一となる場合、集団内の個体間で投資量がばらつき連続的な頻度分布を示す場合、投資量がいくつかの値に固まる離散的な頻度分布を示す場合、集団の投資量が進化し続けることで一定の投資量で安定せず振動する場合、など多様な進化動態が生じた。本研究の結果は、闘争にどのようなコストがかかるかが進化動態を変えうることを示唆する。生物の闘争への投資量の進化をより正確に理解し予測するためには、その生物にとって何が闘争のコストであるのかを明確にすることが重要であることを示した。