| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-204  (Poster presentation)

作物が雑草に豹変するまで: 雑草イネの進化形質の探索【O】
How crops evolved into weeds:  exploring evolution of competitive traits in weedy rice【O】

*丸山紀子(千葉大学), 今泉智通(農研機構), 深野祐也(千葉大学)
*Noriko MARUYAMA(Chiba Univ.), Toshiyuki IMAIZUMI(NARO), Yuya FUKANO(Chiba Univ.)

 野生植物から作物に変化する過程で、栽培化シンドロームと呼ばれる一連の形質進化が生じた。高密度で栽培する穀物では、個体の成長を犠牲にして集団の生産性を高める“利他的な”形質が進化したと考えられている。この利他性には、資源をめぐる種内競争を緩和するような進化が関わっていると考えられるが、直接的な検証はない。
 本研究では、作物が野生的な形質を獲得する「脱栽培化」に注目し、利他性の喪失を実験的に検証する。イネには栽培品種と、それから脱栽培化した雑草イネがあり、雑草イネは世界中で深刻な被害をもたらしている。栽培イネと異なり、雑草イネは個体レベルの選択が働くため、栽培イネにある利他的な性質が急速に失われていると考えた。つまり、栽培イネは高密度下で栽培しても適応度が減少しにくいが、雑草イネでは種内競争が生じ高密度で適応度が減少しやすいはずである。
 実験には、日本に生育する雑草イネ4系統と、対照区として栽培イネのコシヒカリを用いた。1/5000aのワグネルポットで低密度(1個体)と高密度(3個体)の条件で系統ごとに温室で育て、栽培期間中の草丈や分げつ、栽培期間終了後の種子数やバイオマスなどの形質を測定した。各形質を応答変数とし、系統と密度条件を説明変数とした解析を行い、雑草イネと栽培イネで密度の効果が異なるかを調べた。
 解析の結果、仮説を一部支持する結果が得られた。高密度では雑草イネも栽培イネもどちらもポット当たりの種子数が減少するものの、雑草イネのうち3系統は栽培イネよりも大きく減少した。さらに、雑草イネの2系統は高密度で生育後期の草丈が伸長し、1系統は分げつ数が低下する避陰反応が見られた。一方、バイオマスの変化には栽培イネと雑草イネで違いはなかった。これらの結果は、イネが脱栽培化の過程で利他性を失うよう進化したことを示唆している。本発表では、屋外の水田で行った試験の結果も紹介する。


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