| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-206 (Poster presentation)
繁殖干渉は、ある種が繁殖行動を介して近縁他種の適応度を低下させる種間相互作用である。実証研究では、繁殖干渉が種の同所的な共存を妨げ、種の置換や種の分布の空間的分離を引き起こしうることが示されてきた。一方、理論研究では、繁殖干渉が種の共存に与える影響は調べられているが、種の空間的分布に与える影響については十分に調べられていない。本研究では、繁殖干渉の関係にある2種のオスとメスが2つのパッチ間を移動分散する離散時間の個体群動態モデルを構築した。メスの交尾成功率はパッチ内の自種と他種のオスの個体群密度の比率に依存して決定されると仮定し、交尾後にそれぞれの種のオスとメスは固有の分散率で別のパッチに移動する。その後、メスの交尾成功率と個体群密度に依存して次の時間の各パッチ内の2種の個体群密度が決定されると仮定した。2種がそれぞれ別々のパッチに分布している初期状態から1000単位時間の数値シミュレーションを行い、それぞれの種の雌雄の分散率が2種の共存と空間分布に与える影響を調べた。2種の分散率が十分に小さいとき、それぞれの種は初期状態で他種が優占するパッチに侵入することができず、空間的に分離した状態で共存した。また、分散率が十分に大きいときは、個体群密度の空間的な差異が消失し、空間構造がない場合と同じ平衡状態にただちに収束した。一方、分散率の種間差が十分に大きいとき、分散率の大きい種が両方のパッチで優占し、分散率の小さい種が両方のパッチで絶滅しうることが示された。これは、繁殖干渉の効果が相互に十分に小さい (空間構造がない場合に安定な2種共存解が存在する)条件下でもみられた。また、このような絶滅はメスの分散率が十分に大きいときにみられ、オスの分散率の影響は小さかった。このことから、繁殖干渉の効果が相互に十分に小さい場合でも、空間構造を考慮することで、種の絶滅が起こりうることが示された。