| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-207 (Poster presentation)
体内受精を行う動物の交尾器形態は急速に多様化し,種間の生殖隔離をもたらすことで,種多様性の創出・維持に関わる.その多様化をもたらす究極要因が,多くの分類群で明らかにされてきた.オオオサムシ亜属の雌雄交尾器形態は,種間や種内の集団間で著しく多様化している.その多様化には,種内の精子競争や,性的対立による性淘汰が関わった可能性がある.また,種間交尾では雌雄交尾器の形態にミスマッチが生じ,種間交雑が妨げられる.一方,交尾器形態の多様性を生み出す発生学的要因は未だ十分に理解されていない.
本亜属に属するマヤサンオサムシの系統は,交尾片サイズが多様な複数の亜種と,顕著に巨大化した交尾片をもつドウキョウオサムシを含む.この系統に含まれる異なる交尾片サイズをもつ3(亜)種で,雄交尾器の形態形成過程をX線マイクロCTの手法を用いて種間比較した結果,交尾器サイズの大型化には,成長速度の増加,成長に関わると考えられる組織の維持期間の延長,羽化時の形態形成過程が関与していた.以上の結果を細胞や組織レベルで検証するために,本研究では,そのうちの1種の雄交尾器の発生過程を組織染色切片の観察で明らかにすることを目的とした.
結果,種特異的な雄交尾器部位である交尾片の形成は,蛹化後2〜4日齢の表皮細胞の分裂によって開始された.蛹化後4〜6日齢には,表皮細胞が成長し,クチクラの分泌が始まった.クチクラは折り畳まれた状態で分泌され,その折り畳みは,蛹化後6日齢以降の表皮細胞の成長と変形による交尾片の伸長と共に展開された.蛹化後10日齢には,交尾片の先端で色素沈着が始まった.また,CT画像で観察された,成長に伴う交尾片の内部組織の密度減少は,脂肪体の消化によると推定された.以上より,交尾片の発生には,細胞の分裂,成長,形状変化による伸長と,それに伴うクチクラの折り畳みが展開される過程が関与する可能性が示された.