| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-208  (Poster presentation)

クロナガオサムシとオオクロナガオサムシの自種選好性と種間交雑【A】【O】
Conspecific mate preference and interspecific hybridization between Carabus procerulus and C. kumagaii【A】【O】

*間嶋隆善, 高見泰興(神戸大学)
*Takayoshi MAJIMA, Yasuoki TAKAMI(Kobe Univ.)

 種分化は生物の多様化に関わり、その重要な過程の一つに生殖隔離の成立がある。よって、生殖隔離の研究は種分化と生物の多様化を理解することに役立つ。
 飛翔力を欠き移動力の乏しいオサムシ類は、種分化研究のよい材料である。オオオサムシ亜属は種ごとに特徴的な交尾器形態を持ち、交尾器形態の種間差が交配後接合前の機械的隔離をもたらすことが知られている。一方、クロナガオサムシ亜属のクロナガオサムシとオオクロナガオサムシの間には交尾器形態に大きな違いはない。 しかし、2種の分布域は側所的に接しており、交雑帯の形成が確認されている。これは2種の間には雑種個体は生まれるが、交雑帯を狭い範囲に限るような自然淘汰、すなわち生殖隔離が働いているためだと考えられる。そこで本研究は、2種間の生殖隔離がどの交配段階で働いているか明らかにすることを目的とした。
 交尾前隔離を調べるために、配偶者選択実験によって交尾相手としてオスが同種メスを選択する率を調べた。実験の結果、クロナガオサムシのオスは53.57%、オオクロナガオサムシのオスは53.33%の率で同種メスを選択した。二項検定の結果、2種とも選好性なしという帰無仮説は棄却されず、フィッシャーの正確確率検定の結果、オスの同種メスの選好性に有意な種間差は見られなかった。よって、2種の間に配偶者選択による交尾前隔離は働いていないことが示された。
 交尾後接合前隔離を調べるために、2種それぞれの同種のペア、および正逆の異種のペアからなる計4タイプの交尾実験を行った。実験の結果、500秒以上の交尾行動をとったペアはすべて精包を正常に形成していた。よって、2種の間に授精段階における 交尾後接合前隔離は働いていないことが示された。
 以上の結果より、2種間の生殖隔離は接合後以降の交配段階で働く可能性が示され た。よって、クロナガオサムシ亜属は同属のオオオサムシ亜属とは異なる機構の生殖隔離を持つことが示唆された。


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