| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-209 (Poster presentation)
野生動物の行動を長期かつ連続的に記録するために、加速度ロガーを用いる間接的な行動の記録手法がある。加速度ロガーから取得された計測値と行動内容を紐づけることで、計測値から行動を識別することが可能となる。先行研究では、行動内容の分類区分が粗く、野生個体特有の行動や、より頻度の少ない行動の記録や識別が難しいといった課題がある。そこで本研究では、ツキノワグマ(Ursus thibetanus)8個体(オス:5、メス:3)に装着したビデオカメラで撮影した映像と、同時に取得した加速度データを使用し、実際の野生動物の行動内容に即した、詳細な行動内容の識別を行う階層構造の機械学習モデルの構築を目的とした。構築したモデルは、大まかな区分である「状態」(10種類)を識別し、その識別結果を特徴量に加えて、細かな区分である「行動」(31種類)を識別する階層構造のモデル(以下、階層モデル)と,「行動」を直接識別するモデル(以下、行動モデル)、そして、階層モデルにおける「状態」の識別精度を評価するための「状態」を直接識別するモデル(以下、状態モデル)の3種類である。モデルの精度は、10段階交差検証(Ten-fold cross validation, 以下10fold-CV)と1個体抜き交差検証(Leave One Bear Out, 以下LOBO-CV)により検証した。10fold-CVにおけるF1スコア(適合率と再現率の調和平均)のマクロ平均は、階層モデルでは0.372、行動モデルでは0.339であった。また、すべてのモデルにおいて、10fold-CVに比べてLOBO-CVにおけるF1スコアのマクロ平均が低下したが、その低下度合いは、行動モデルに比べて階層モデルでは小さく抑えられた。また、モデルの精度は、行動モデルに比べ階層モデルの方が高く、行動の分類区分を細かくする場合は、階層構造のモデルを構築することが識別精度の向上に役立つことがわかった。さらに、餌を探索する行動と採餌行動のような加速度による識別が難しい行動や、木登りなどの加速度による識別に適していると考えられる行動が明らかになった。