| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-210 (Poster presentation)
マメ科植物と根粒菌との間には、植物が根粒菌に光合成産物を与えて根粒内で増殖させる一方、根粒菌は植物に窒素固定産物を与えるという相利共生関係が知られている。この関係には特異性があり、ある植物と共生可能な根粒菌は限られる。また、根粒菌が植物の成長を促進するパフォーマンスにも変異があり、植物がパフォーマンスの高い根粒菌系統を選好する事例が報告されている。根粒内で増殖した根粒菌は土壌中に再び放出されるため、こうした選択の過程が土壌微生物叢に影響を与える可能性がある。しかしながら、土壌中の根粒菌の存在量や共生のパフォーマンスを調査した研究はこれまで限られていた。そこで本研究では、マメ科のモデル植物ミヤコグサを対象に、生育地周辺の土壌中の共生根粒菌の分布や宿主の成長に与える効果の違いを定量することを目的とした。土壌サンプルの16S rRNAアンプリコンシーケンス解析およびショットガンメタゲノム解析の結果、ミヤコグサに共生するMesorhizobium属根粒菌の存在量は局所集団ごとに大きく異なることが明らかになった。さらに、土壌から抽出した菌叢のミヤコグサへの接種実験の結果、Mesorhizobium属の存在量が多いほど、またミヤコグサ近傍の方が、土壌菌叢がミヤコグサの成長量に正の効果を与えることが分かった。また、単離根粒菌系統の再接種実験では、根粒菌系統ごとに植物の成長を促進させるパフォーマンスの違いが見られ、土壌菌叢の植物成長量に対する効果に違いの一部を担うことが示唆された。これらの結果は、根粒菌の放出を介してミヤコグサが自身の成長に適した共生根粒菌を土壌中に増加させていることを示唆する。今後は、混合接種により宿主植物による根粒菌への選好性を定量することで、複数の根粒菌系統が存在する自然土壌において共生関係が土壌菌叢にもたらす影響の解明が期待される。