| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-213 (Poster presentation)
シリアカヒヨドリとコシジロヒヨドリは姉妹種で、形態や生態が類似しており、かつて同種と考えられていた(以下、ヒヨドリ省略)。シリアカは南アジア、コシジロは東南アジアを中心に分布する。ミャンマーで分布が接しており、両種の交雑の可能性が指摘されてきたが、遺伝的研究はなかった。本研究では、ミャンマー産の両種を対象に、ミトコンドリアDNA(mtDNA)と核DNAを用いた遺伝解析を行い、交雑の痕跡を調べた。mtDNAの解析では、シリアカヒヨドリの集団が6%分岐の2系統に分かれ、一方はシリアカのみを含み、もう一方はコシジロと一部のシリアカを含んでいた。この結果、シリアカが側系統群であることが明らかとなった。一方、核DNAの解析では両種はそれぞれ独立したクラスターを形成し、mtDNAの結果とは一致しなかった。このミト核不一致は、過去の交雑による遺伝子浸透が主要な要因と考えられる。つまり、過去に両種が交雑し、コシジロ由来のmtDNAがシリアカの一部の集団に取り込まれた可能性が高い。ただ他の要因も検討する必要がある。不完全な系統仕分けの場合、両種の共通祖先が持っていた異なるmtDNA系統が、現在の集団に不均等に受け継がれた可能性がある。絶滅系統からの遺伝子浸透の場合、絶滅した未知の系統が過去にシリアカと交雑し、そのmtDNAが現存する集団に残存している可能性がある。さらに、シリアカの集団内の遺伝構造を調べたところ、中央平原の集団と北部・西部の山地の集団で明確な遺伝的分化が確認された。また、南西部の一部地域では、両集団の中間的な遺伝的特徴を持つ個体群が存在することが分かった。これは、地理的な隔離によってシリアカ内で遺伝的な分化が進行していることを示唆している。本研究はシリアカとコシジロの交雑の痕跡を遺伝的に示すとともに、鳥類における遺伝子流動の影響を理解する上で重要な知見を提供するものである。