| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-215 (Poster presentation)
ジャコウネズミ(Suncus murinus-S. montanus 種群)は主にアジア南部からインド洋沿岸地域に広く分布するトガリネズミ科の小型哺乳類である。日本では現在、琉球列島にのみ生息している。ミトコンドリアcytb配列を用いた先行研究から、本種の分布拡大と人類の活動の関連が指摘されており、本種の遺伝的構造を調べることで、人類の歴史を復元できる可能性がある。人類の関わる交雑や急激な集団拡大の可能性が考えられる本種においては、全ゲノム配列というビッグデータを解析に用いることが有効である。しかし広範な分布を持つ本種では、一部地域の個体については全ゲノム配列が解読されていたが、分布域全体にわたる全ゲノムレベルでの遺伝的構造は不明であった。
本研究ではマダガスカルから東南アジアまで分布全域にわたり全ゲノム配列(1.6 Gbp)を解読した。先行研究の9個体と含む計29個体の全ゲノム配列を用いて、全ゲノム上の一塩基変異(SNVs)に基づいた解析を行い、遺伝的構造と集団の形成史を明らかにすることを目的とした。その結果、全ゲノムSNVsを用いたネットワーク解析では(1)インド亜大陸以西系統、(2)スリランカ系統、(3)ミャンマー主幹系統、(4)東・東南アジア主幹系統の4つの地域系統に大別できた。さらに遺伝子流動を検出するf4統計量などを用いることで、全ゲノムレベルでも地域集団間における交雑の痕跡が示され、本種の遺伝的構造には人類の活動が影響を与えた可能性が示唆された。
全ゲノムで確認された4つの系統に焦点を当て、ミトコンドリアDNAを補助的に用いつつ、個々の地域個体群の遺伝的な構造とその成立について考察する。また分類学上の課題となっているS. murinusとS. montanusの遺伝的関係などについても議論する。