| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-220 (Poster presentation)
古くから、生態系の種多様性や安定性を理解するために、個体群動態の駆動メカニズムが理論的に研究されてきた。しかし、生物個体は空間内を移動する特徴をもつにもかかわらず、空間を考慮しない数理モデルが多く、空間構造を考慮したモデルであったとしても、個体がある一定距離の移動や通常のランダムウォークをするという仮定が置かれることが多かった。昨今、動物行動の観測技術の向上により、多くの短い直線移動に加え、まれに極端に長い直線移動が現れる Lévy walk という移動パターンが動物の移動に幅広く見られることが報告されている。動物の移動は種間相互作用を変えうるため、Lévy walk は従来の個体群動態のモデルとは異なる帰結を生む可能性がある。そのため、現実の個体群動態の理解・予測・制御のためには Lévy walk を考慮したモデルを考える必要がある。
本研究では、被食者-捕食者の2種系において Lévy walk が個体群動態に与える影響を解析した。連続的な空間を想定したエージェントベースモデルにおいて、被食者は動かずパッチ状に分布し、捕食者はベキ分布に従う直線移動をもつ移動様式を仮定した。ベキ分布のパラメータであるベキ指数を変化させることで、動き方を直線移動,Lévy walk,通常のランダムウォークと変えることができる。また、捕食者が被食者を発見する確率もパラメータとして設定した。捕食者のベキ指数と発見確率を変化させて個体群動態を解析すると、発見確率によって、捕食者が直線移動や Lévy walk をするときに共存率が高くなり、平衡状態での捕食者の個体数が多くなることが明らかになった。これは、直線移動や Lévy walk によってパッチの食い尽くしが防がれているからであると考えられる。