| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-221 (Poster presentation)
食物を捕まえ処理する機能を反映する形態に、餌環境に応じて変異が見られることがある。エゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)は、初期幼生から、餌環境に応じて大顎の肉食型へ、あるいは小顎の雑食型へと、幼生の形態発生軌道に分岐が生じる。初期幼生から、大顎型幼生・小顎型幼生、そして変態後の成体への形態の発生軌道は、複雑なDevelopmental Reaction Norm (DRN)に支配されている。
エゾサンショウウオは、餌により異なる頭部形態の幼生になること、それらの形態には地域変異があることがこれまでの研究で知られている。しかし、変態後の成体が、幼生期のそれぞれの形態の痕跡をどのように残すか、それらの地域変異はどのようかは分かっていない。本種の生息域をカバーする5つの地域集団から採集した卵を用い、飼育発生実験によって、各集団で初期幼生から成体までの発生軌道がどのようなDRNによるのか、その地域変異がどのようか、幾何学的形態測定法による頭部形態(shapeとsize)の分析と系統樹分析によって調べた。
初期幼生はshapeとsizeの相関はなく、食性によって形態が誘導された幼生にはshapeとsizeに相関があった。この相関関係は成体では消失した。全てのステージと食性グループで、形態には地域集団間の変異があった。系統樹が示す地域集団分化パターンと、地域集団の平均形態値の分布パターンから、形態の系統依存性を分析した。初期幼生のshapeのみが、系統分岐パターンを反映していた。さらに、初期幼生のshapeの変異が、食性によって誘導された幼生の形態の地域間変異を説明するものであった。幼生の形態は餌環境へ適応的柔軟性があるが、初期幼生と成体のshapeは系統発生と個体発生の拘束を受けていると思われる。