| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-222 (Poster presentation)
個体間の微視的な相互作用に基づいて系全体の巨視的なパターンが形成されるプロセスの解明は、生物の群れの研究において中心的な課題である。本研究では、空間パターン形成の一例である社会性昆虫の自発的な集合行動を対象とする。アミメアリPristomyrmex punctatusは均質な光環境下でも高い集合性を発揮し、この統合性はコロニーとしての適応度を高めていると考えられる。その一方で、本種において新規コロニーは巣の分裂によって創設されると考えられている。両現象を整合的に説明するために、本研究では総個体数に着目した。
実験では、均質な実験環境下で同一コロニーから採取したアミメアリ2集塊の再統合過程を動画撮影し、再統合の成否および統合過程での個体数動態をピクセルベースで自動取得し、個体数の時系列データを得た。その結果、集団サイズが小さい場合は2集塊の統合が起きる反面、大きい場合は分裂状態が維持されることが判明した。また、同サイズで単一の集塊を作らせた実験では集塊の分裂は観察されなかったことから、集団サイズの増大に伴って集団の集合状態に双安定性が存在することが示唆された。これは、コロニーサイズの増大がコロニー分裂をもたらすであろうという予想を支持するものである。
観察された現象をもとに、2集塊の個体数動態を記述するシンプルな非線形微分方程式モデルを構築した。解析の結果、安定平衡点には集団サイズの増加に伴うピッチフォーク分岐が生じ、観察された双安定性をよく再現できた。さらに、実験で取得した時系列データに本モデルをフィッティングし、パラメータ値のベイズ推定を行った結果も報告する。本研究で用いたモデルは2状態の遷移全般に適用できる一般性を持つものである。