| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-223  (Poster presentation)

一回の有性生殖が複合ストレス下の絶滅を防ぐ:ミカヅキモを用いた培養実験【O】
A single episode of sexual reproduction can prevent population extinction under dual stressors【O】

*川口也和子, 山道真人(国立遺伝学研究所)
*Yawako W KAWAGUCHI, Masato YAMAMICHI(National Institute of Genetics)

有性生殖は、異なる遺伝情報を持つ配偶子が組み合わさることで、個体群に遺伝的多様性をもたらす。遺伝的多様性が高ければ、環境変化に対する適応が容易になるとされるが、具体的な実証研究はいまだに少ない。そこで本研究では、単細胞の一倍体藻類ヒメミカヅキモ(Closterium peracerosum–strigosum–littorale complex)を用いた培養実験によって、有性生殖が複合ストレス(塩ストレスおよび酸性ストレス)下の個体群増殖率に与える影響を調べた。親系統として用いた2系統は、野外において同所的に生息していた遺伝的に近いものであるが、多くの遺伝子においてコピー数が異なっている。このため、有性生殖によって生じたF1系統は、親と異なる遺伝子コピー数の組み合わせを持つことになる(Kawaguchi et al. GBE 2023)。さまざまな強度の酸性ストレスと塩ストレスを設定した培地において、親2系統とF1系統の増殖率を比較したところ、いくつかの条件でF1系統が親系統よりも著しく高いまたは低い増殖率を示す、いわゆる超越分離が観察された。特に、pHが低くかつ塩濃度が高い厳しい環境条件下では、親系統が負の増殖率を示す場合でも、正の増殖率を示すF1系統が確認された。さらに、ゲノム情報を用いた解析から、親系統間のコピー数変異がpHストレス関連の遺伝子に多く認められた。これにより、有性生殖によって生じたF1系統は、特にpHストレス関連遺伝子において親とは異なる遺伝子コピー数の組み合わせを有することで、新たな表現型を示した可能性が示唆された。本研究の結果は、たった1回の有性生殖であっても、組換え・遺伝子コピー数の変化などの効果によってゲノム中に大きな変異が生じ、環境ストレスへの適応を促進して、進化的救助にも貢献し得ることを示唆する。


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