| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-225  (Poster presentation)

タゴガエルの広告音に対する種認識メカニズムはどのように強化するのか【A】【O】
How does reinforcement enhance species recognition in Rana tagoi?【A】【O】

*井ノ上綾音, 森朗(京都大学)
*Ayane INOUE, Akira MORI(Kyoto Univ.)

タゴガエルは、本州・四国・九州に分布する山地性のアカガエルである。本種は、近縁種であるヒメタゴガエルと近畿北部で同所的に分布し、体サイズや繁殖期に形質置換が生じている。一般に近縁種が同所的に存在するとき、しばしば繁殖干渉が生じる。繁殖干渉は個体群に重大な影響を及ぼし、絶滅、棲み分け、交配前隔離の強化による同所的生息などの進化的帰結が予測される。特に交配前隔離の1つである性的隔離は、同所域において求愛シグナルに対するメスの選好性に生殖的形質置換(RCD)が生じることで強化する。本研究では、タゴガエルとヒメタゴガエルの同所域における性的隔離の強化の有無とその強化メカニズムを調べることを目的とした。そこで、まずメスの選好性とシグナルのRCDの存在の有無を調べた。さらに同所域のタゴガエルにおいてメスの選好性とシグナルでRCDが生じた音響的形質を特定することで、性的隔離の強化メカニズムについて考察する。解析の結果、メスの選好性のRCDはタゴガエルでのみ確認された一方で、シグナルのRCDは両種で確認された。従来、シグナルのRCDはメスの選好性のRCDに付随的に生じるものと考えられてきたが、両者のRCDの有無は必ずしも一致しない可能性が考えられる。また、プレイバック実験から、同種と他種のシグナルに対するタゴガエルのメスの選好性の違いは、音節数の種間差に起因することが示唆された。加えて同所域と単独域のタゴガエルのシグナルの違いを分析したところ、音節数で、最もヒメタゴガエルの同所分布の有無を予測する結果となった。以上から、ヒメタゴガエルの同所域において、タゴガエルのメスは音節数に対する選好性が他種の形質値から離れる方向へシフトすることで同種と他種のシグナルを区別するようなRCDが生じ、オスのシグナルは音節数に対するメスの選好性のシフトに呼応する結果としてRCDが生じたと推測される。


日本生態学会