| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-227 (Poster presentation)
ゲノムサイズ(GS)は生物個体の基本的特徴量の一つであり,種間・種内変異が認知されている一方で,増減のメカニズムについては未解明な点が多く,特に種内変異に関する研究は限られている.本研究では非飛翔性甲虫のヒョウタンゾウムシ属(Catapionus)で見出されたGS種内変異を報告するとともに,GS進化を規定する生態学的要因についての洞察を提示する.
ハイイロヒョウタンゾウムシ(C. nebulosus)とフキヒョウタンゾウムシ(C. modestus)について,個体のGSを推定したところ,両種ともに最大2.04倍に達する変動をもつGS種内変異の存在が明らかとなった.C. modestusの染色体を検鏡したところ,染色体数からすべての個体が2倍体(2n=22)であることが確認され,GS変異は倍数性に起因するものではないことが確認された.次に,GSに対する非遺伝子領域量の寄与を調べるため,リシーケンスデータを使用してゲノム全体に占めるトランスポゾン(TE)相対量および組成要素を推定した.その結果,TEが最大でゲノムの80%を占める個体が確認され,組成についてはClassII TEであるMariner様TEがゲノム中の反復配列の大半(最大53%)を占めることが判明した.また,GSとTE相対量との間に正の相関が認められたことから,非遺伝子領域サイズがGSの種内変異をもたらす至近要因の1つであることが示唆された.
さらに,GS変異に対する環境要因の影響を調べるため,種分布モデリングによって調査地点の生息好適度を推定したところ,生息好適度が高い地点ほど個体のGSが大きい傾向が見られた.この結果は,GSの増加がコストとなり,生息に不適な環境では大きなGSの維持が困難になるというLarge Genome Constraint仮説の予測を支持するものである.