| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-228  (Poster presentation)

メスの選り好み仮説はレック型一夫多妻の進化を説明できるか?【A】【O】
Can Female Choice Hypothesis Explain the Evolution of Lek?【A】【O】

*一色竜一郎, 大槻久(総合研究大学院大学)
*Ryuichiro ISSHIKI, HISASHI OHTSUKI(SOKENDAI)

一夫多妻とは、1匹のオスが複数のメスと交配する繁殖戦略のことである。その中には、レック型と呼ばれる様式があり、オスは集団(レック)を形成し、ディスプレイに専念する。メスはレックを訪れて交尾し、その後、生息地へ戻って子を育てる。この繁殖戦略において、メスがオスから受け取るのは配偶子(遺伝的利益)のみであり、豊富な餌や安全なテリトリーといった、レックの祖先システムである資源防衛型の戦略をとるオスと配偶して得られる直接的な利益はない。
レックの進化について、メスの選り好みに基づいた仮説が提案されている。この仮説は、メスはレックで複数のオスをその質について比較することにより、より優れた遺伝的利益を持つオスを選ぶことができるため、レックを好む傾向があると説明する。一方で、メスがハラスメントを避けるためにレックに入るという説明や、希釈の効果のためにオスが集まるなど多くの仮説があり、レックの進化におけるメスの選り好みの影響は明確でない。そこで本研究ではメスの選り好み仮説はレックの進化を説明できるかを調べた。
具体的には、メスの選り好み仮説に関わる要因だけを抽出した数理モデルを構築した。オスとメスはそれぞれ、レックと資源防衛型のオスが防衛するテリトリーのどちらで交尾を行うかという選好性を進化的な形質として持つと仮定した。シミュレーションの結果、(1)レック型のみが進化する(2)資源防衛型のみが進化する(3)レック型と資源防衛型が交互に現れる(4)レック型と資源防衛型が共存するという4パターンが得られた。レックは、メスが質の高いオスを選びやすく、オスの質による遺伝的利益が大きい場合、また、資源防衛型オスから得られる直接的利益が小さい場合に進化しやすいことが示された。本発表では、レックの進化ダイナミクスにおける4つのパターンについて、進化的安定性や進化の帰結について議論したい。


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