| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-230  (Poster presentation)

シロイヌナズナ自然集団におけるシュート再生能力のバリエーションと遺伝的基盤の探索【A】【O】
Exploring the genetic architecture underlying natural variation in shoot regeneration ability in Arabidopsis thaliana.【A】【O】

*有馬弘大(九州大学)
*Kodai ARIMA(Kyushu Univ.)

植物にとって器官や個体の再生は、環境変化に適応し、身体の恒常性を維持するためのしくみとして重要な形質の1つである。一部の植物では、身体の一部から完全に個体を再生することができるほどの高い再生能力を有している。種内でもこの再生の起こりやすさには大きなバリエーションが見られ、さまざまな機構によって複雑に制御されていると考えられている。しかしながら、どのような遺伝・分子基盤によって再生能力の変化が引き起こされているかは完全に解明されていない。

 本研究では、この再生能力のバリエーションが、どのような遺伝的基盤によって制御されているかを明らかにすることを目的とし、シロイヌナズナ自然集団190系統を用いた遺伝学的解析を行った。表現型には、シュート数、シュート原基数、根状組織数などを含む28の再生に関わる表現型の公開データを用いた (Lardon et al. 2020)。各表現型のGWAS、およびMeta-Analysisを用いた原因遺伝子座の検出を行った。また、再生能力の環境適応への寄与を考察するため、気候、地理的分布と再生形質のバリエーションの関連性を解析した。

解析の結果、閾値に基づいて9遺伝子座が検出され、そのうち4遺伝子座は既知のシュート再生の調節因子であった。先行研究でバリエーションへの関与が既に報告されているWUSHEL(WUS)、miRNA393に加え、新たにARABIDOPSIS RESPONCE REGULATORおよびSUVH1/3-INTERACTING DNAJ DOMAIN-CONTAINING PROTEIN 3の遺伝子座の多型の関与が示唆された。なかでもWUSの非リファレンス型のアリルは非祖先型で再生能力を向上させていた。このアリルを持つ系統はスウェーデン南部を中心に分布しており、再生形質の遺伝的な制御ネットワークに地理的な傾向が生じていることが確認された。今後、機能未知の遺伝子座を含め、自然選択の解析や、変異体を用いた機能検証を行うことで、再生のバリエーションを制御する遺伝的メカニズムと環境適応への寄与を明らかにできると考えられる。


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